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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)3304号 判決 1997年6月27日

原告

河津稚枝子

ほか一名

被告

前田義雄

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告河津稚枝子に対し、金一七七九万二七〇八円及びこれに対する平成七年六月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告河津稚枝子の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  被告らは、連帯して、原告河津心に対し、金一七七九万二七〇八円及びこれに対する平成七年六月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告河津心の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。

六  この判決は、第一項及び第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは、連帯して、原告河津稚枝子に対し、金五四四五万七七三八円、原告河津心に対し、金五四四五万七七三八円及びこれらに対する各平成七年六月一四日(本件不法行為の日)から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―自賠法三条(民法七〇九条)に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】

第二事案の概要

本件は、駐車場に進入しようとして右折した被告前田義雄運転の自動車と衝突して死亡した自動二輪車の搭乗者の遺族である原告らが、自賠法三条(民法七〇九条)に基づき、加害者である被告前田義雄及びその自動車の保有者である被告有限会社前田土木に対して、その損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実

1  事故の発生

訴外河津昭雄(昭和四五年四月三日生、事故当時満二五歳、以下「亡昭雄」という。)は、次の交通事故により死亡した(以下、右事故を「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成七年六月一四日午後一一時四五分ころ

(二) 場所 三重県鈴鹿市住吉一丁目四番八号先の道路上(以下「本件道路又は本件事故現場」という。)

(三) 被害車両 自動二輪車(以下「亡昭雄車」という。)

右運転者 亡昭雄

(四) 加害車両 普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告前田義雄(以下「被告前田」という。)

(五) 事故態様

<1> 本件事故現場の状況

ⅰ 本件道路は、東西に通ずる平坦、直線の市道で、片側一車線(その幅員は、被告車が進行していた西向き車線が三・七メートル、亡昭雄車が走行していた東向き車線が三・二メートルである。)であり、黄色中央線で区分され、本件道路南側は縁石により歩道が設けられていること、

本件道路の両側は、住宅や店舗が連続する住宅街であること、

ⅱ 本件道路の路面は、本件事故当時は降雨により湿潤したアスフアルト舗装の平坦な道路で、欠損箇所はなかつたこと、

ⅲ 本件道路の交通規制は、その制限速度は毎時三〇キロメートルであり、駐車禁止及び追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がなされていたこと、

ⅳ 本件道路の見通しは、直線道路であつて、前後とも良好であり、視界を遮る障害物もなく、本件道路南側には水銀灯が設置されていて本件事故現場は明るかつたこと、

<2> 本件事故の態様

本件事故のうち、亡昭雄車は、本件事故現場手前を東進して直進していたこと、被告車は、西進しながら直進して対面走行し、本件事故現場に差しかかつたこと、被告車が、進行方向右側の居酒屋駐車場に進入するために右折した際に亡昭雄車と接触したこと、なお、被告前田は、本件事故前に飲酒をしていたこと、

(以上の各事実につき、いずれも当事者間に争いがない。)

2  被告らの責任原因

被告前田は、土建業を営む被告有限会社前田土木(以下「被告会社」という。)の代表取締役であり、本件事故の被告車を運転していた者である。

(当事者間に争いがない。)

本件事故については、被告前田には、安全確認義務違反の過失があり、原告らに対して、民法七〇九条による不法行為責任を負担するものであり、また、被告会社は、被告車を保有しており、原告らに対して、自賠法三条による損害賠償責任を負担するものである。

(被告前田本人、弁論の全趣旨)

3  相続

原告河津稚枝子は、亡昭雄の妻であり、また、原告河津心は、亡昭雄の長男であるから、原告らは、法定相続分に従い、各二分の一の割合で亡昭雄が本件事故により被つた損害賠償請求権を相続した。

(甲第二号証)

4  損害の一部填補(損益相殺、合計金三〇〇〇万円)

原告らは、本件事故による損害賠償として、自動車損害賠償責任保険金三〇〇〇万円を受領した。

(当事者間に争いがない。)

二  原告らの主張

1  本件事故の態様について

本件事故は、被告車が中央線を越えていきなり右折し(しかも、右折の合図をしないまま)、亡昭雄車走行車線に進入してきたために、亡昭雄はこれを避けきれず衝突したものである。したがつて、被告前田の一方的過失により発生したものである。

2  亡昭雄の逸失利益について

亡昭雄は、本件事故当時本田技研工業株式会社鈴鹿製作所に勤務していたが、右会社は、平成八年三月当時において従業員数二万八〇〇〇名余りの大会社であるから、亡昭雄の本件逸失利益を算定するにあたつてのその基礎収入は、賃金センサス平成七年第一表従業員数一〇〇〇人以上の会社における男子労働者学歴計の年収額金六八三万八五〇〇円とすべきである。

三  被告らの主張

1  本件事故の態様について(過失相殺)

本件事故現場は、制限速度三〇キロメートル毎時のところ、亡昭雄はその制限速度を五〇キロメートル以上上回る速度で進行していたものであり、しかも、本件事故当時は小雨が降り、やや靄がかかつたような状態であつたから、自動二輪車での視界は極めて悪い状態にあるという悪条件にもかかわらず、右のような高速で進行してきたために、右折方向指示器をだしながら減速徐行して路外への進入準備をしていた被告車に気が付かず、漫然と高速のまま進行して本件事故を起こしたものである。したがつて、亡昭雄には、本件事故の発生につき少なくとも六割以上の過失があるというべきである。

2  亡昭雄の逸失利益について

亡昭雄のような給与所得者の逸失利益については、基本的には事故前の現実収入を基礎とするのが合理的であり、かつ、実務の趨勢である。

四  本件の争点

被告らは、本件事故の態様を争い、亡昭雄には、相当な速度違反等の過失があるとして、前記のとおりの過失相殺を主張し、さらに、原告ら主張の各損害額(特に逸失利益について)等について争つた。

第三争点に対する判断

一  損害額について

1  逸失利益について(請求額金一億〇六七一万五四七六円)

認容額 金六四〇六万四八八一円

前提となる事実及び証拠(甲第九号証、乙第二号証、弁論の全趣旨)によれば、亡昭雄は、本件事故当時満二五歳の健康な男子であつて、本田技研工業株式会社鈴鹿製作所に勤務して、本件事故前年の平成六年には年額金四一〇万五三八一円の収入を得ていたことが認められる。

右の事実によれば、亡昭雄は、本件事故に遇わなければ、その後四二年間にわたり稼働可能であり、右稼働期間中右の年収額である金四一〇万五三八一円を下らない年収を得ることができ、全期間について生活費として収入の三割を必要とし、右の稼働可能期間に対応する新ホフマン係数二二・二九三を乗じると、亡昭雄の逸失利益は金六四〇六万四八八一円(一円未満切捨て。以下同じ。)となる。

(計算式) 四一〇万五三八一円×(一-〇・三)×二二・二九三=六四〇六万四八八一円

<右の点につき、原告らは、前記原告らの主張2のとおり、その基礎収入は、賃金センサス平成七年第一表従業員数一〇〇〇人以上の会社における男子労働者学歴計の年収額金六八三万八五〇〇円とすべきである旨主張するが、当裁判所は、亡昭雄のような給与所得者の逸失利益については、基本的には当該被害者の事故前の現実収入を基礎とするのが合理的であると解するものであり、かつ、本件においては、弁論の全趣旨によれば、いわゆる賃金センサス《その内容については公の事実である。》と対比しても、亡昭雄は、同年齢の給与所得者とほぼ同等の収入を得ていたものと認められるから、これらによれば、前記認定のとおり算出するのが相当であると判断するものである。したがつて、原告らの右主張は、これを採用しない。>

2  慰謝料について(請求額金二六〇〇万円)

認容額 金二五〇〇万円

本件事故の態様、亡昭雄の年齢、亡昭雄の家族関係等本件に現れた一切の事情及び甲第九号証を総合すれば、亡昭雄の慰謝料としては、金二五〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用について(請求額金一二〇万円)

認容額 金一二〇万円

前提となる事実及び証拠(甲第四号証、甲第五号証、弁論の全趣旨)によれば、原告らは、亡昭雄の葬儀を執り行い、約金一四〇万円を支出している。

右の事実と本件に現れた諸事情によれば、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は金一二〇万円をもつて相当と認める。

二  本件事故の態様及び事故原因について

前記の前提となる事実に、証拠(甲第一号証、甲第三号証、乙第一号証の一、二、被告前田本人の供述<ただし、後記の採用しない部分を除く。>、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場の状況としては、前記の前提となる事実1の事故の発生(五)の事故態様<1>の本件事故現場の状況のとおりであること、

2  本件事故の態様としては、

被告前田は、被告車を運転して本件道路の西進方向に進行して来て、本件事故現場のその進行方向右側(本件道路北側)の居酒屋(被告前田自身が経営する店舗)駐車場に進入するために、一旦は中央線寄りに停止して亡昭雄車に先行して東進する自動車二台ほどをやり過ごした後に、その後方に亡昭雄車のライトを認めたものの、そのまま右駐車場に進入することができるものと考えて、進路変更(右折)の合図をすることなく、右前方に対する安全を十分確認しないまま反対車線(亡昭雄車が進行して来た東進車線)に進路を変更したところ、右東車線を進行してきた亡昭雄車に衝突(被告車の右前部フロントグリル及び前部中央バンパーが損壊した。)したというものであること、

これに対して、亡昭雄は、亡昭雄車を運転して本件道路の東進車線を時速約五〇~六〇キロメートルを上回る速度で走行していたものであるが、前記のとおり突然被告車が反対車線から自分の走行する車線に進路変更(右折)してきたことから、前記のとおり被告車と衝突したこと、

なお、右の亡昭雄車の速度の点に関して、前掲の証拠中には、本件事故直後の亡昭雄車の速度計は八二キロメートルを指針していた事実が認められるが、本件全証拠によるも他に右事実を裏付ける客観的証拠がないことから、右事実はただちには採用しがたいこと、

以上の1及び2の各事実が認められ、右認定に反する被告前田本人の供述は、前掲の他の各証拠に照らしていずれもこれを採用できない。

3  そこで、まず、被告前田の過失を検討するに、

本件道路の被告車からみての前方の見通しは良かつたのであるから、被告前田は、その進路を変更(反対車線を横切つて右折)するに際しては、あらかじめその合図をし、右前方の安全の確認、すなわち、特に本件道路の右前方を注視して、本件道路の反対車線(亡昭雄車が進行して来た東進車線)を走行して来る自動車の有無などその安全を十分に確認して、その進行して来る自動車の進路を妨害しないようにして進行すべき注意義務があつたのに、これを怠り、その直進車両の進行を遮つたという重大な過失があること、

4  これに対して、亡昭雄の過失を検討するに、

本件道路の前方の見通しは良かつたのであるから、亡昭雄は、本件道路を走行するに際しては、本件事故現場における右折車両の存在とその車両の動静などを注視して、十分に減速するなどして、自己の走行する車線へ進路を変更して来る自動車の有無などその安全を十分に確認して走行すべき注意義務があるのに、これを怠つたという過失があること、

以上3及び4の認定判断に反する被告前田本人の供述は、前掲の他の各証拠に照らしてこれを採用できない。

三  過失相殺について

前記二で認定の各事実及び認定判断によれば、本件事故は、前記認定の被告前田の過失と亡昭雄の過失とが競合して発生したものといわざるをえない。そして、前記認定の諸事情に徴すると、本件事故における被告車と亡昭雄車との過失割合については、被告車(被告前田)が七割、亡昭雄車(亡昭雄)が三割と認めるのが相当である。

四  具体的損害額について

そうすると、前記一で認定のとおり、本件で原告ら(亡昭雄)が被告らに対して請求しうる損害賠償の総損害額は合計金九〇二六万四八八一円となり、前記三の過失割合による過失相殺をすれば、原告らの具体的な損害賠償請求権は金六三一八万五四一六円になるところ、原告らは、損害の一部填補として、自動車損害賠償責任保険金三〇〇〇万円の支払を受けた(前提となる事実の4)ので、これらを損益相殺すると、被告らが原告らに賠償すべき賠償額は合計金三三一八万五四一六円となる。(前提となる事実の3の相続割合によれば、原告河津稚枝子及び原告河津心各人につき各金一六五九万二七〇八円となる。)

五  弁護士費用について(請求額金五〇〇万円)

認容額 金二四〇万円

本件事故と相当因果関係のある原告らの弁護士費用相当の損害額は、金二四〇万円(原告河津稚枝子及び原告河津心各人につき各金一二〇万円)と認めるのが相当である。

六  結論

以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴請求は、原告河津稚枝子及び原告河津心各人につき各金一七七九万二七〇八円及びこれらに対する本件不法行為の日である平成七年六月一四日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安間雅夫)

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